開催日:2017年8月26日(土)10:00~16:00
会場:PUBLICUS(東京・大伝馬町)
撮影:丸尾隆一、富樫尚代、菊池宏子
授業内容
Relight Committee第2回目の授業テーマは「ボディ・身体」。前半はヌードデッサンという「実験」を通して、体とは何か、人体とは何かを考え、自分自身の身体への向き合い方を考えました。後半は座学でパフォーマンスアートの事例などを紹介し「身体は言語である」ことを学びました。
午前:[実験1]ヌードデッサン
午前の実験では、ヌードモデルを招いた粘土デッサンをおこないました。授業の冒頭で、今回の実験の意図である「見ることで見られることと向き合う」こと、「視覚情報でしかなかった『人体』を実体として意識する」ことを説明した後、30分間のデッサンが始まりました。
それぞれの作品を鑑賞しながらお互いにその意図を発表・共有した後は、ファシリテーターの菊池がモデルの女性を紹介。ここで初めて、彼女のパーソナリティーが明かされました。モデルのパーソナリティを踏まえた後のデッサンでは、受講生それぞれが最初とは全く違う表現となりました。対象の情報を得ることによって「見る」という行為にどれだけの変化が生まれるのかを実感するとともに、見ることを通して「自分の身体との違い」を考え、自分とは一体どんな姿なのかを見つめ直す時間となりました。
午後:[学習]身体は言語である
午後は「身体は言語である」をテーマに、海外のパフォーマンスアートやその社会背景から身体の持つメッセージ性、政治性について学びました。
少々過激なパフォーマンスの事例もあえて紹介し、アートは社会という仕組みの中にどんな影響を与えうるのか、どのように社会情勢とシンクロしていくのかを紹介するとともに、同じパフォーマンスでも人種・パーソナリティによって意味合いが変わってくることを学びました。これらを通じて、「自己」の確立と今後のActionを実践するときに「なぜ自分はこのActionでなくてはいけないのか」を考え実践するための大切な学びのポイントとなりました。
午後:[実験2]世界湯へ行く
午後後半のパートは、人形町にある銭湯「世界湯」にて入浴。銭湯という裸で過ごす空間に身を置くことで、さきほどまでの「見る」側から、今度は「見られる」側へと意識を転換させ、それによって自分の身体に対する意識や振る舞いにどんな変化が現れるのかを実感する場となりました。
世界湯にて[実験]としての入浴を試みたメンバー
今回のレポートはRelight Committee2015として活動し、OGとして今回の授業をサポートしてくれた富樫尚代が執筆します。
(インビジブルアシスタント・室内直美)
メンバーの変化・Relight Committeeという場の変化
前もって知らされていたのかどうかわかりませんが、いきなりモデルさんが「ヌード」で現れて、みなさんびっくりされた様子でした。(私だけかな?)
粘土をこねて心の準備をし、モデルが表れて最初の30分、まず目の前にある身体をソノモノとして受け止め、自らの内面でどう表現するかを考え、女性性の上の豊かさを表現する人、立っている人間の重心にこだわる人、手の美しさに注目した人、あえて顔を表現しない(できない?)人、などさまざな反応が見られました…なんというか、自分も含めて目をそらしている、言い訳を考えている、という感じかな。
その後、彼女との対話を通じ、ヌードモデルになることが初めての経験であること、女相撲をテーマにした映画に俳優として出演し体重を20kg増やしたこと、表現者になりたいと逡巡した青年期のことなど知るにつれ、彼女の堂々とした引き締まった身体(どっしりとしたおしりと足、しまったウエストなど、美しいと思いました)と、凛とした顔の表情にひきつけられていく様子がわかりました。
対話後の創作では明らかにみなさんの表情にゆとりと変化が見られ、何を表現したいかという意思を感じました。なめらかな肌やひきしまった肉感、重心を表現する人、対象から離れ丸いどっしりとした印象を「器」としてつくったひと、そして何よりも「顔」をつくった人が3人もいました。意志の強そうな鼻筋や、「未来」を見上げる表情、目を合わせることができて目に注目した作品など、さまざまな作品に仕上がりました。
モデルとのディスカッションを経て変化したメンバーのデッサン
人間の身体は、ただの肉体でなく、その人の人生や思想や意思を表すものだ、ということを改めて認識しました。作家、アーティストはどうしてもその「人間」をえぐりだしたいという衝動にかられて、表現するものなんですね。
最初のデッサンを終え、モデルとメンバーのディスカッション
Relight Committee OB・OGの視点から
Relight Committeeのテーマは1年ごとに変化しています。RelightCommittee2015は宮島達男さんの作品である『Counter Void』に圧倒され、宮島さんの「パブリックアートとして作品は自分の手を離れている。どう解釈してもどう料理してもいい。壊してしまってもいい」という言葉と思いに後押しされ、限られた3日間の再点灯を目指してグループワークを行いました。
六本木というキラキラした現場は外国人も多く、個人的には地域を意識して笄小学校への出張ワークショップも行うことができ良い経験となりました。昼、夜のそれぞれのチームがバラバラに議論と制作を進行したので、当日本番で初めてそれぞれの作品を認識するという結果となりました。しかし、3日間、入れ替わり立ち替わり『Counter Void』に通い、光と影を意識したそれぞれの作品の語りかけるものが、宮島さんの意図したことに充分応えていると思いました。
受講生から、OGとして参加したRelight Committee2016では、多種多様な職場環境の若いメンバーが集まり、しかも元気な女性が多く、自分の持っているスキルを深堀し、新たな価値を加えたい、単純にいうと「自分探し」といった雰囲気でした。与えられた課題は、メンバー一人ひとりが社会彫刻家になること。自らに問いかけ、プレゼンテーションし、メンバーからその意味を問われ、それぞれがアクションを起こすという過程に、メンターとして関わってきました。それぞれにドキュメンタリードラマの制作過程を見つめるような楽しさがあり、個人的には真剣なプレゼンテーションの際の、メンバーたちの「泣き笑い」が愉快でした。
この2年間を通して、年齢やジャンルを超えたメンバーたちに共通していたのは「お互いをもっと知りたい好奇心」、それがクリスマス会やシロクロ御飯会といった交流の機会となり、Facebookを通じた日常の情報の交換ともなっていて、私自身も新しい出会いを楽しんでいます。
Relight Committee2017は、初めてお目にかかった印象として、アートや表現に関わる専門的な人が集まっている様子で、それぞれの立ち位置から「自分と社会」を見つめなおすきっかけをこの市民大学の中でつくりたい、ということでしょうか。
その専門性がさまざまな学びや関わり合いの中でどう変化していくのか、今後も引き続き見つめていきたいと思います。
第2回を終えて
Relight Committeeに2年間関わり、今年で3年目が始まりました。定年を機に前職であるオーケストラの事務局から距離を置き、Relight Committeeで新しい仲間と議論をし、プロジェクトを行ってきました。仕事以外でこんなに一生懸命目的に向かって取り組んだことはありません。
Relight Committee2016が終わった後、他のメンバーの「今何やってる?」を聞いたり、見たりする中で、確実に新しい「生き方」に自信を持って歩んでいると思っています。単に「いい友達」ができた、というだけでなく、「いい友達」が社会彫刻することを意識していることに関心が向いている、という意味です。
オーケストラの事務所で「わたしはね、社会彫刻家なんだよ。私たちオーケストラの仕事は社会を彫刻することなんだよ」と、偉そうに音楽大学を卒業した若いメンバーに唱えています。「社会彫刻」というワードから色んな考えや経験やつながり導き出され、新しい事象が生まれていくことに期待しています。
レポート:富樫尚代(Relight Committee 2015)
撮影:丸尾隆一、富樫尚代、菊池宏子