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Relight Committee 2017 第5回授業レポート

開催日:2017年11月18日(土)10:00~16:00
会場:アーツ千代田3331 アーツカウンシル東京ROOM302
撮影:丸尾隆一

授業内容

Relight Committee 第5回のテーマは「コミュニティ」。公開講座として開催した午前のプログラムではゲストに大分県を拠点とするアーティスト二宮圭一さんを迎え、二宮さんが監督されたドキュメンタリー映画を上映しました。

午後は受講生のみのクローズドな講座で二宮さんとディスカッションを行い、最後にRelight Committee 2017のメンバーそれぞれが考えるActionプランを共有しました。

午前:[学習1]『日常~めぶき園を訪ねて』

午前のプログラムは、今年度初めてとなる公開講座形式で開講しました。
上映した『日常~めぶき園を訪ねて』は、大分県の福祉施設を題材に、二宮さん自身が撮影・編集をしたドキュメンタリー映画です。自閉症の方々が入所している福祉施設めぶき園の中で、入所者の方々がどんなことに笑い、喜び、生活を営んでいるかを温かいまなざしで記録した90分の作品です。

今回は、映画全編のナレーションを二宮さん自身が会場で読み上げる特別バージョンで上映しました。穏やかに続いていくめぶき園の日常が、二宮さんの力強い声によってぐっと会場に引き付けられた感覚があり、めぶき園の人々、そしてその日常があたかも目の前で過ぎていくように感じられる上映会でした。

午後:[学習2]二宮さんとのディスカッション

午後は、二宮さんからこの映画を作るうえでのコンセプトや、映画が目指したものなどをお話しいただきました。

タイトルにもあるように「日常」を記録したドキュメンタリー映画ですが、二宮さん自身は「我々の日常とは違う、めぶき園の人々の日常」ではなく「我々の日常の延長線上にめぶき園の人々のような存在がいることを伝えられるよう制作した」とお話しされていました。そして、「人はみな平等である。その象徴のようにすべての人に平等に朝が訪れ、夜が訪れる」ことを表現できるよう、映画のラストシーンはめぶき園の人々が眠りにつくまでの様子、そして朝日が差し込み新しい日が始まる描写で締めくくったと、映像の編集意図について解説していただきました。

その後は二宮さんへメンバー一人ひとりから感想や質問を投げかけ、ディスカッションしました。映画の中で語られた、「自閉症の当人の危険な行動は家族にとって未知のものであるが、実は当人にとっても未知のものである」ということが心に残ったメンバーは、「人と人との『わからなさ』と、わからないからこそわかろうとすることの大切さが浮き彫りになっているように感じた」との感想がありました。
それに対して二宮さんからは、「どんな人の心も、本当はわからない。だからこそ寝ているときは平等であることを表現したくて就寝中のシーンは欠かせないものと思って収録した」とコメントを返していただきました。

[実践]Actionプラン発表

午後最後のパートは、これから年度末にかけてメンバー一人ひとりが実行する「Action」について、それぞれが事前に考えてきた草案を発表しました。一人5分程度の短い時間でしたが、事前に提出していた企画書や、人によってはまだ固まりきっていないイメージをイラストや写真で表現した資料をもとに、いま考えていること、悩んでいることをメンバー、ファシリテーターの林・菊池と共有しました。

まだ具体的な形にできずマインドマップのような状態で提出したメンバーもいる一方、「『言語化』で人生を彩る行動を起こしたい」と手法がかなりはっきりしているメンバーもおり、進捗は一長一短です。

最後にファシリテーターの菊池は、アート作品を作ることがゴールではなくActionを実行するのが目的であることを改めてメンバーに伝えました。Actionプランは次回12月の活動日までに別途個別面談の時間を設けながらブラッシュアップし、その過程もWEBで公開していく予定です。

16時にプログラムが終了した後、メンバーの大半は連れ立って移動していきました。メンバーの一人が自主的に声を上げ、授業プログラム内で話しきれなかったActionのコンセプトやフィードバックをじっくり共有することを目的に、会場を移して食事をしながら語り合っていたと後から報告がありました。熱を帯びたディスカッションは21時ごろまで続いたとのこと。

Relight Committee 2017の活動期間も後半に入り、メンバー一人ひとりの個性がより際立つとともに、メンバー同士の結びつきが強固になってきているのを感じました

今回のレポートは、当日授業をサポートしてくれたOGメンバーの富樫尚代が執筆します。

(インビジブルアシスタント・室内直美)

 

Relight Committee OB・OGの視点から

二宮さんのドキュメンタリー作品『日常~めぶき園を訪ねて』は自閉症の施設の日常を追った作品でした。

障害者、福祉、というテーマは重くてメッセージ性が強くて、いつもしんどいなぁと思う。ましてや自閉症。よくわからないので申し訳ない、という強迫じみたものも常に感じる。自閉症の子の絵がすごい、という経験があるので今回もそれかなと最初は思っていました。

二宮さんは、自分のことを「チンピラ、野良犬、よく言えば寅さん」と自己紹介されていました。めぶき園の入所者は大人ばかり。冒頭の母親たちの会話は、子どもが生まれた時からここまで育て上げた過程が語られていて凄まじいものがあるけど、母親たちのコミュニティがあって、この施設を作る運動を起こし、その信頼関係があるから笑いながら語れるということを時間をかけてじっくり紹介していく。淡々と日常を追う映像からは特に強いメッセージは感じられませんでした。でも、奇行を繰り返す入所者や職員の人たちへのインタビューには、「分からないから分からせてください」という情熱が溢れていて、それは、入所者、職員、二宮さんに共通する通奏低音でした。

私自身の経験でも、小編成のアンサンブルで何度か知的障害者の子どもたちの施設を訪れたことがあり、全身で音楽を受け止めて歓声を上げたり走り回ったり踊ったり、演奏する音楽家をマジマジとのぞき込んだりする子どもたちを、とても「人間的な反応だ」と感じました。麻酔を打たれたように、なんの反応も示さない小学校高学年以上、中学生、高校生、(そして大学生まで)と比べると、よほどに「やりがい」を感じました。

ノープラン、つくりこまずに行き当たりばったり、出会った風景や人に予断なくぶつかっていく好奇心こそ二宮さんそのもの。私は、彼が企画・制作している大分県内の70歳以上の高齢者に突撃インタビューする、もう600回を超えるNHK大分放送局の人気番組「小さな肖像」に、その「手法」がいかんなく発揮されていると思いました。

自身のプロジェクトの提案を目前に四苦八苦しているRelight Committee 2017メンバーは、このノープラン発言にあっけにとられていました。本当は「どういう意図でどう交渉したのか」「筋書きや問題提起は?」と質問したいところだが、「考えてない」という答えにメンバーはタジタジ。

でも私にはわかる。彼は対象に対して「これはおもしろそうだ、おもしろくなりそうだ」という動物的な直感がはたらき、相手の顔を見てニッコリ笑い、世間話でリラックスさせてじっと待っていれば、期待にそった答えがでてくるということが。こういうの、今風にいうと「人たらし」というんでしょうか。心底、人に対する信頼があるからできることですね。

 

メンバーの変化・Relight Committee という場の変化

私がRelight Committee2017メンバーと会うのは2回目。以前にサポートした第2回の活動日は、モデルの田代さんの堂々とした裸を前にして、彼女の人柄を知る前と後の変化を粘土をつかって彫刻をつくるという画期的な授業でした。田代さんと語ったことで、それぞれが受けた新しい感情や印象が作品となり、あきらかな変化がうまれました。

今回は、二宮先生から受ける外からの刺激に対して、どう感じて反応するかという授業でした。受講生の多くは、自閉症という医学的にも説明しきれていない障害への困惑、母たちへの共感、職員の方々の心の中をわかってあげたいという情熱や対応に圧倒されていました。そして、それをあっけらかんと映像にして伝えてしまった作品についての感想をどう表明したらいいのか、まだ言葉にできない、といった感じでした。

二宮先生への質問や感想では、コミュニティに入っていく時の決意や言葉について、非言語の人たちとの交わりといった想像上のコミュニケーションについて、の質問が目立ったような気がします。

答えといえるかどうかわかりませんが、二宮さんから、自らもケガで障害を負っためぶき園職員でアーティストの木村さんの言葉が紹介されました。それは「自閉症の人には空間把握能力がないんじゃないか、自分の居場所もわからないんじゃないか」というもの。根拠はないけれども、医学や学会とは違い、アーティストの直観力が存外正しくて、コミュニケーションの一助になるのでは、という言葉になるほどと思いました。

最後に一人5分程度でしたがメンバーから今回初めて文字ベースでActionの提案が出されました。平和について歌を通じた対話をしたい。Relight Projectをローカルメディアに載せたい。3.11の記憶を六本木でたどる。とにかく「言語化する」。ヒゲをつけて街中を歩く。といった具体的な提案がある一方、母であることを根拠に「生」と「死」を考えたい、アートのトンネルを掘る、他者と向き合い表現するワークショップをやりたい、まだ思い浮かばない、など「具体的なイメージ」はこれからの人もいました。

いよいよ具体的なActionについて悩み苦しむこれからの数か月。私は前述のめぶき園の木村さんの「直感」に感動しました。もちろん日々の経験や学びやいろんな逡巡をへての「直感」ですが、メンバーのみなさんも自分の直感で突き進んでいいんじゃないでしょうか。理屈とお金はあとから考える、私の人生訓でもあります。

第5回を終えて

今回は午前中が公開講座だったため、Facebookなどで情報を知った15名ほどの人たちが、映画の上演と二宮さんに会いに駆け付けてくれました。中には3,40年ぶりに二宮さんに会いに来た人もいて、自身も「生き別れた昔の友人に会えた」と興奮気味でした。そんなハプニングを見て、この公開講座はRelight Projectを知ってもらういいきっかけになったのでは、と思いました。

Relight Committee の厳選された授業内容は新鮮で自分の「知的」経験の範囲をはるかに超えているし、街へ飛び出す経験も、見えないものを見つけに行く冒険にもワクワクします。

出会う受講生たちはちょっと「毛色」が変わっていて行動的でノリが良くて、この3年間の学びはこの社会を「信ずるにたる」ものだと思わせてくれる体験だったと思います。皆さん、ありがとうございました。

レポート:富樫尚代(Relight Committee 2015 )
撮影:丸尾隆一