開催日:2014年10月14日(火)
会場:東京文化発信プロジェクトROOM302
ゲスト:長嶋りかこ(グラフィックデザイナー)
聞き手:宮島達男(美術家)
ゲストは、グラフィックデザイナーとして「光の蘇生プロジェクト(現:リライト・プロジェクト)」に関わることになった長嶋りかこさん。「Counter Void」の再生に向かって、これから実際にどんなことをしていくのか、プロジェクトのアイデアや方向性について語りました。
Counter Voidをきっかけに、それぞれが考えて行動できる場をつくる。
長嶋 このプロジェクトは、皆で考え対話しながらつくっていくものなので、私がここで「こうしたいんです」と言っても、このプロジェクトがその方向に真っすぐ向かっていくかどうかは分かりません。理想を描いてまとめたプランになっていますが、どこまでかたちになるか。宮島さんは、今回のこのプロジェクトにおいてのCounter Voidという作品は「アーティストが舵を切って作品を作っていくという事とは、何かちょっと違う」と、おっしゃっていましたが、その根底には、宮島さんがもともと提唱している「Art in You」という考え方があると思うんですけど。
宮島 「Art in You」は、日本語に訳すと「アートはあなたの中にあります」という意味。普通アートというと、つくるのはアーティストで一般の人たちは見る立場、つまりつくる人と見る人っていう役割分担があると考えられています。アートはアーティストの専売特許で、それをありがたがって見てもらう、というように。でも、僕はそれは違うんじゃないかなと、ずっと思っていた。アート作品の主役は見る人で、見る人によって使われていくべきなんだ、っていうのが僕の考え方です。
僕は、3.11への鎮魂の意味を込めて、Counter Voidの光を消しました。でも「つけてほしい」という声が出てきたときに、作家が勝手につけてしまうのではなく、応援していくスタンスでいたい。それがこのプロジェクトを、非常に複雑というか、今までにないものにしている理由だと思うんですよね。
長嶋 このお話を頂いたとき、アートは見る人が主役という考えを基に、プロジェクトも受け手との対話を含めたプロジェクトになったらいいなと思いました。これまで「光の蘇生プロジェクト」ではたくさん勉強会をやっていますよね? その規模感やターゲットを変えながら継続して架空の“学校”という場にまとめたらいいんじゃないのかなというのが、私からの提案です。Counter Voidをきっかけに、「アートとは何か」「人間とは何か」「3.11後の社会とは何か」、そういったことを対話しながらそれぞれが考え、行動しカタチにできる場になればいいのかなって。
今、名前は仮に「光の学校」としてみましたけど、これは実際に場所を借りて設立するわけではなくて、架空の箱、アーカイブの場としての「学校」です。Counter Voidは、その学校の象徴的なファサードとして存在するっていう形がいいのかなと。
「光」で本質を照らし、見えないことを見えるように。
宮島 なるほど。物質的な建物ではなくて、情報をアーカイブする“見えない学校”なんだね。だからイラストの学校部分もウエハース状になってるわけだ。これはいいですね。
長嶋 ウエハース状は、たまたまでした(笑)。「光」っていうのはもちろん、Counter Voidの光でもあるし、見えない本質を照らすという意味も込めています。今、見えなくなってしまっていることがたくさんあると思うんです。例えば、忘れられつつある3.11もそうですし、東北の情報や復興の中身もそう。「復興」っていう言葉自体、もう記号化されてしまって中身のリアルは見えないですよね。
例えばエネルギー。私たちはふだん大量の電気を使っているけど、電気って目に見えないから実感無くムダにしてしまうし、空気のように当然あるものとして扱ってるからいきなりオフされたときにどう生活していいのかもわからなくなってしまう。
いろんな”見えない”ことがあると思うんですけど、このプロジェクトを通して、”見える”ようになるといいですよね。
宮島さんが以前おっしゃってましたけど、資本主義の中でのこれまでの作品の作り方は、アーティストが上から「どん」と置くようなマッチョなやり方だった、けどこれからは違う作り方があっていいんじゃないかと。本来一人ひとりの心の中にあるはずのアート的なものを、もっと見えるようにしていく。作品から受け取ったものをそれぞれが考え、自らも行動する、カタチにする、ってことができたらとても理想です。
宮島 なるほど、僕のイラストが手を上げてるのも、行動する! って感じがしてかわいい。
軸は3つ「アートとは何か」「人間とは何か」「3.11後の社会とは何か」。
長嶋 3.11を機に光を消された作品からは、3.11以降のアートを考えることになるし、それは同時に置かれている社会も考えることになる。これからのエネルギーのありようもそう、暮らしかたもそう。Counter Voidから「3.11以降の社会とは何か」を考えさせられることになる。そして「アートとは何か」。つまりは「人間とは何か」を考えることになると思うのですが、宮島さんがこの作品を作った意図や、消した意図を知ることで、今後のこの作品のありかたもそうですが、アートって、人間って何なのかっていう問いに出会うことになる。ここでは、宮島さんにもたくさん授業をやっていただきたくて。たとえば、Counter Voidのある六本木には小学校が4つあるので、そこで課外授業をしてもらえたらいいなあ。
宮島 そっちはアートつながりですね。
長嶋 はい。宮島さんの「Counter Voice」という作品を、いろんなところでやってほしいんですよね。
宮島 「Counter Voice」っていうのは、自分で9から0までカウントダウンをして、0のときに大きく息を吸い込んで黙って止まる。で、またカウントダウンしながら動き出す、というのを繰り返すパフォーマンス。「うっ」って止まった瞬間が「死」、つまり生命のサイクルを表現した作品です。いろいろな人たちに体験してもらっていて、この前も山形県の米沢で、子どもたちと一緒にやりました。
やってみると彼らなりにいろいろ考えるみたいで、面白いですね。そこで出た意見で、ちょっとショックを受けたことがあるんです。ある女の子は、自分の身内にすごく若くして亡くなったおじさんやおばさん、いとこがたくさんいて、それがずっとトラウマになっていた。そして、自分も若くして死ぬんじゃないかって思っていたそう。
パフォーマンスをしていると、その人たちのことが思い浮かぶ。でも途中から、死ぬことを考えるんじゃなくて、実はカウントをしている、生きているときをどう輝かせていくかを考えるほうが重要なんじゃないかって思い直した。それから少し楽になった、みたいな意見をくれて。中学生がですよ、びっくりしちゃうよね。
長嶋 それはすごいですね。
宮島 僕が言いたいことを全部言ってくれたんですよ。
長嶋 「Counter Voice」は、すごくいい授業になるんじゃないかなって思うんです。
あとは「あなたが消えたCounter Voidを生まれ変わらせるとしたら、どういう作品にしますか?」と、みんなに投げかけてみるのもいいんじゃないでしょうかね。「Art in You」の精神で、それぞれのCounter Voidを考える場をもってみるとか。
それから「光の蘇生プロジェクト」での勉強会のように、宮島さんと様々な専門の人たちの対談もしてほしいです。
宮島 なるほど、面白いかもしれないね。
長嶋 たとえば社会学者の開沼博さんがやっている「福島エクスカーション」。福島の今を知るというテーマで、被災地を実際に訪れ現場の今を知る機会を作っているそうなので、そこで実際に暮らしている人や被災地の今を見聞きして、自分が行動できることは何かを考える。
宮島 これは絶対にやりたいよね。先日の勉強会で、開沼さんは、復興のためにできることを3つのポイントで説明してくれました。まず何かを「買う」、そして被災地に「行く」、最後に「働く」。「買う・行く・働く」その3つが重要だと。
長嶋 自分の目で見て、できることをかたちにしていくような、行動の伴う場にできたらいいですね。
再点灯することで、消えていた事実を際立たせる。
長嶋 それから、Counter Voidが消されたことを知らない世代、そもそもついていたんだ、という世代もいるじゃないですか。
宮島 そうそう、消えてから3年もたつとね。
長嶋 なぜ宮島さんがこの作品を作り、そして今なぜ消しているのかっていうことも、伝えていったほうがいいんじゃないかと思って。
宮島 以前、茂木健一郎さんと対談したときに、「Counter Voidは作品として、ずっと消していたほうがいいんじゃないの?」って言われました。でも、その対談のアンケートで、「私は消えている状態しか知らないので、ついたらどうなるのか知りたいです」っていう意見をもらって。すごく単純な意見だったんだけど、「あ、そうか」と。
つまり、ついていることを知っている僕らからすると、消えたっていうことがものすごいインパクトとして自分の中にあるんだけど、もともと消えた状態しか知らない人にとっては最初から何もないのと一緒。3.11があろうがなかろうが、そんなこと全然関係なくなっちゃうんですよね。だからCounter Voidをつけることによって、逆に消えていた事実が際立ってくるという側面もあるかなと思って。
長嶋 消えていることを周知する方法も必要なのかなと。六本木には毎年「六本木アートナイト」があるので、そのときCounter Voidに、宮島さんからのメッセージを大きく書いてみるとか。
宮島 別のアートにしちゃう?
長嶋 いえ、あくまで対話を生むための仕掛けにしたほうがいいと思います。この作品が消された意図や、再点灯するかしないかっていうことも含めての対話を生みたい。そして今後もそうやって対話によって作品が作られていくことも知らせたいです。
六本木アートナイトではまず、「光の学校」の開校宣言を。
宮島 そのメッセージをきっかけに、「光の学校」のウェブサイトを見てくれるんだ。
長嶋 そうですね。サイトには今までの勉強会のアーカイブもそうだし、これからのプロジェクトについての情報発信とか途中経過とか、行動の成果の報告なんかも載せます。その他に、「光の学校新聞」っていうのもあって。
宮島 壁新聞みたい。
長嶋 そうそう。たとえば、このウェブサイトがそのままプリントアウトできて、それをプロジェクトを周知するためのDMとしても使えたり、定期的に号外を配布したり。とにかく地道に伝えていくことが必要なのかなって思って。だから六本木アートナイトでは、まず「学校を開校します」って宣言もいりますね。
宮島 ここに「アーティスティックディレクター・宮島達男」って書いてあるけど?
長嶋 そう、勝手に書いてますけど。
宮島 勝手には決められないでしょう(笑)。あと「森美術館にて宮島達男展」?
長嶋 これも勝手に書いてみました(笑)。Counter Voidは、せっかく六本木にあるので、テレビ朝日やJ-WAVEなどのメディアとも協同した行動ができたらいいですよね。宮島さんは去年の六本木アートナイト2014でワークショップもやっていましたよね?
宮島 はい。先ほども話したように、Counter Voidの光をつけたいという声が上がっているということで、「『光の蘇生』プロジェクト予告篇 〜《Counter Void》再生をめぐって〜」と題して、茂木健一郎さんと対談をしました。そのあと観客のみなさんによる賛同のアクションとして、Counter Voidにシールを貼ってもらったんですね。
アーティストとのコラボレーションということでいえば、この間「六本木未来会議」というウェブマガジンの取材のときにも、そんなアイデアを話しました。Counter Voidの前って、歩道がたっぷりあるんですよ。その広い歩道を使って、ちょっとしたパフォーマンスとかダンス、ミニコンサートみたいなものが定期的にできないかなと考えています。
http://6mirai.tokyo-midtown.com/interview/45/
長嶋 空間的にもいい場所なので、できそうですよね。
地方や被災地をパッケージ化せず、フラットに連携する。
長嶋 あと、地方。もちろん東京発信のプロジェクトではあるんですけど、人材を含めて地方との連携をできたらいいな。
宮島 この間、大分の国東半島芸術祭に参加して感じたのは、僕たちは地方をパッケージ化してしまっているんじゃないかってこと。国東っていうところは過疎化が進んでいて、市長さんとか県庁の役人さんたちは「地方を何とか元気にしてください、アートに期待してます」と言う。でも現地に入って、実際に地元のおじいちゃんおばあちゃんと直接話しているときは、地方っていうパッケージは全然関係ないんですね。
パッケージ化してしまうのは、ある種傲慢。それってたぶん東北も同じだと思うんです。すぐ「被災地は」とかっていって、十把一絡げにして語っちゃう。だから地方との連携は、すごくいいテーマですよね。
長嶋 私の友だちに、地方にいても地方にいるように思えないというか、地方の不便さをあんまり感じさせない友人がいます。地方の良い所を堪能し存分に生かした暮らしをしているのですが、都市との交流もあって価値観がすごくフラット。彼女らが居る場所が中心のような。そういう若い人って増えてきてるように感じます。
宮島 僕が国東で出会ったおばあちゃんもそう。言ってみればすべての世界がそこにあった。世界が丸ごとあるから、地方とか都会とかは関係なくて、別にもうそれで十分っていう印象を受けました。
長嶋 その友だちっていうのが、「札幌国際芸術祭2014」にも出展していた「暮らしかた冒険家」っていうんです。高品質、低空飛行生活をモットーにしていて、冒険家を名乗っている。我慢はしないし、いいものを買ったり食べたりもするんだけど、でも暮らしのベースは低空飛行。http://meoto.co/
宮島 ようは、ぐっとコストを抑えるっていうこと?
長嶋 コストも抑えてるけど、それは我慢ではなく豊かに楽しく暮らすための行為に転換しています。そして既にある大きな既存の組織やシステムに乗っからない。例えば彼女らは建築家ではなくても家を自分たちで作ってしまいます。札幌なので冬はすごく寒いですけど、どうやったらコストをかけずに断熱性が高くエネルギーを無駄にしない暖かい家がつくれるのかっていうことに挑戦していて。断熱材の間に羊毛を入れるらしいんですけど、それも調べてタダでもらってきちゃう。
宮島 買うんじゃなくて?
長嶋 もらうの。羊毛を大量に捨てるっていう情報をキャッチして、もらってきて洗って使うんです。私、彼らの家に何泊かしたんですけど、すごく面白くて。
宮島 寒くて凍え死ななかった?
長嶋 死ななかったし寒くなかったです(笑)。野菜も作っててご飯もめちゃくちゃおいしいし。やっぱり全部自分たちで作り出す環境にしてるから全てにおいて腕が上がるんですよね。
宮島 なるほど。生き方がスキルアップする。
長嶋 他にも、たとえば美術家の椿昇さんがやっている小豆島のアートプロジェクトや、気仙沼ニッティングなど、地方の継続的な地域づくりを着々とやられている方の視点を伺ってみたいです。
再点灯するのかしないのかは、あえて空白に。
長嶋 全体像は、こんな感じです。ちなみに、最終的に再点灯するのかしないのかっていうところはまだ空白にしています。長い時間をかけていろんな対話をしていきながら、たどり着く答えになると思うので。
宮島 いや、これ完璧じゃないですかね、すごい! やっぱり手描きっていうのがいい。よく見るパワーポイントを使ったプレゼンって、見た目やフォントはきれいだけど、あんまり味がないから。でも、出来上がった感じがして、これでもういいじゃないって、安心しちゃいそう(笑)。それじゃあいけないですね。
長嶋 プランは今後も変化していくと思いますが、まずは2015年4月の六本木アートナイトから。消えたCounter Voidのもつメッセージを見えるように発信すること、それと学校のような場をつくること、それを今から動いていけたらいいのかなと思っているんですけど、どうでしょうか?
宮島 もちろん賛成です。行動をともなった、みんなの知的好奇心の揺さぶり方もすばらしいし、それにCounter Voidやアートが関わっているのがすごく明快に見えているので、とても面白いと思いました。あとは、勉強会やワークショップがいろいろあって、そこに参加したり関わったりする人たちが、そのあとどんな行動をしていくか。その具体的なイメージってありますか?
長嶋 「光の学校」が、それを見えるようにしてくれる場所になったらいいな、と。
宮島 つまり、そこから先は、関わる人たちみんなで考えていくべき、ということですね。ありがとうございました。