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Relight Committee 2017 第4回授業レポート

開催日:2017年10月14日(土)10:00~16:00
会場:アーツ千代田3331 アーツカウンシル東京ROOM302
撮影:丸尾隆一

授業内容

Relight Committee第4回のテーマは「観光」。午前はメンバーたちが「東京観光」をテーマにしたフィールドワークへ出かけ、ファシリテーターから受け取った様々なインストラクションを実行しました。
午後はフィールドワークで持ち帰った感想を全員でシェアし、日常に対しどのような意識の変化があったかを語り合いました。午後最後のパートでは昨年度の受講生を招き、自身が昨年度に企画し実行した「Action」について紹介しました。

午前[実験:「東京観光」

実験に入る前に、林から当日のテーマについてレクチャーがありました。未知との出会いが思考を生む・育むこと、日常にズレをつくることを観光とアートの類似性として挙げ、「異化」をキーワードとしながら、社会彫刻家の力を養うために「観光」を考え・使うための発想の転換を呼びかけました。

そして、メンバーたちは「東京観光」のフィールドワークへ。今回、メンバーたちには日常の「異化」を促すための様々なインストラクション(行動指示)を割り当て、フィールドワーク中に実行することを指示しました。

<8人別々のインストラクション>
・無料でもらえるものを全て集めてきなさい。
・公衆電話で、2年以上話していない人に電話をかけなさい。
・ホテルの受付にいるコンシェルジュに助けを求めなさい。
・見知らぬ人と、できるだけ多くのセルフィーをとりなさい。
・100歩ずつ歩きながら出会う人に「歩いて皇居にいくにはどうすればいいですか」とたずねなさい。
・英語だけを使って「妻恋神社」を目指し、到着したらそこの写真を取りなさい。
・困ってるフリをして、助けてもらいなさい
・この街にあるローカルルールを集めてきなさい。

<8人共通のインストラクション>
・1000円以内でRelight Committeeメンバーへ東京みやげを買ってきなさい。

これらのインストラクションは、実際に見知らぬ観光地に行ったときに起こりうるであろう状況を想定して設計しました。 メンバーは二人一組になって行動し、互いのインストラクションを知らぬまま交互にインストラクションを実行。片方がインストラクションを実行している最中、もう一方のメンバーが「今、インスタレーションを実行中している」と感じた際にその様子を動画で記録し、午後の共有の時間に活用しました。

相手のインストラクションを知らずに記録をおこなう中では、相手を注意深く観察し、「日常」とのズレを見極めなくてはいけません。旅先でも現地の人の行動を見て自らの「日常」との違いを知り、その土地の文化や慣習に気づくことがあります。今回はペアの行動を観察しながら、記録する側もまた観光する側の視点を持てる方法をとりました。

そしてペアになったメンバーたちはそれぞれにインストラクションを実行しながら、会場周辺である末広町・湯島・秋葉原のエリアを思い思いに探索しました。見知らぬ人に声をかけるチャレンジングなインストラクションもあるなか、懸命にそれをこなしていくことで「日常」を「異化」し、自身の視点にどのような変化がもたらされるのかを探りました。

午後:実験のフィードバック

午後は午前のフィールドワークの結果をお互いに発表し、何を感じたのかを共有しました。ペアごとに相手の様子と、どんなインストラクションを実行中だったのかの予想、そしてその答えを発表しました。

あるメンバーは、時間制限と行動指示を与えられたことによって街歩きがいつもとは違う特別な時間として認識され、街行く人に声をかける、英語で話しかけるといった勇気のいる行動もチャレンジしてみようとする行動力につながったと語り、そういった行動力を生むのはアートにも通じるものがあるのではないか、という気づきを共有しました。

全員共通のインストラクションである「東京みやげを買ってきなさい」という指示では、「日常」ではあまり訪れる機会のない東京の土産物店に足を踏み入れたメンバーも多くいました。なかには「東京みやげ」を扱う店舗であっても従業員のほとんどが外国人という店もあり、日常とは違い日本語が思うように通じない場面もありました。会場に戻るなかでも、日本食ファストフード店の従業員がほとんど外国人であることに目が行くようになり、想像以上に日常のなかに多くの外国人がいることを意識するとともに「日本」というアイコンを外国人が扱っている風景にあらためて目が行き、それに違和感を感じる自分に気づかされたという声もありました。

それぞれのインストラクションを発表した後は、「東京みやげ」で持ち帰った品々を発表。1000円以内という制約のなかで、誰に贈るのか、土産物によって何を伝えるのか、周りと違うものを選ぶには、と様々なことを考えて選ばれた品々が集まりました。

カラフルな消しゴム/春画のぐい呑み/古地図のレターセット/食品サンプルキーホルダー/浮世絵柄の箸セット/神社グッズ/鉢植えなど

最後に全体を通したフィードバックとして、山梨県の八ヶ岳から通ってきているメンバーから「観光地に住んでいることもあり、観光と日常の違いについてはいつも考えていた。八ヶ岳の住民として『内側』にいると観光という視点が持てなかったが、インストラクションを受けて秋葉原を歩く中では街を外から見ている感覚を持てた。八ヶ岳にいる中では自分で無意識に内側と外側を区切る線を引いている感覚があり、どうして境界線を引いてしまうのか、フレーミングしてしまうのかを考えさせられた」という声がありました。

ほかにも「未知との出会い、新しい自分を発見することも観光なのではと思った。そういった発見を続けていければもっと日常が楽しくなるのではないか。テレビのドキュメンタリーを見ることや、本を読んで違う世界に没入することなど、メディアの力を借りてでも新しい価値観の差異と出会うことができ、それも旅と呼べるのではないか」という気づきもありました。

それぞれがインストラクションを通して、実験ではない普段の生活の中にも思考を深めるヒントがあることに気づいたようです。

午後:Relight Committee 2016メンバーによるActionの紹介

午後は昨年度の受講生である関恵理子さんにご協力いただき、関さんが昨年行ったActionと、そこに至るまでの経緯をお話しいただきました。関さん自身もなかなかテーマを掘り下げられず悩んだことや、Actionのブレイクスルーに至るきっかけなどを今年度のメンバーと共有しました。

関さんのAction「生きるってめんどくさい」(http://relight-project.org/report/foreword/)は、「私、関恵理子は、『めんどくさい』ことについて、一年間、書き記すことを宣言します。」という声明文のもと、一冊のノートに日々の「めんどくさいと感じたこと」を書き綴っていく作品です。

2017年1月にこの声明文を発表して日々ノートを更新してきた関さんは、ノートを書いていくなかで「なぜめんどくさいと感じるのか?それは本来は『めんどくさい』ではなく、怒りや悲しみといった感情なのではないか」と気づき、「めんどくさい」をより具体的で本質的な感情、言葉に落とし込むことができるようになったと語りました。

「なぜめんどくさいのか」を自分自身に問いかけ、気持ちを適切に表現できる言葉を得たことで、少しづつ「めんどくさい」と思う気持ちが薄らいでいき、いまではほとんどノートを更新していないそう。昨年度からファシリテーターをしている林、江口や運営メンバーにとって、Actionを通じてその当事者が変化している事実を改めて知る機会となり、Actionがもたらす自己変容に対する驚きと嬉しさを感じた時間でした。

今回のレポートは2016年にリライトプロジェクトの運営事務局であるNPO法人インビジブルのインターンとしてRelight Committeeに参加し、OGとして今回の授業をサポートしてくれた鶴見香月が執筆します。
(インビジブルアシスタント・室内直美)

メンバーの変化・Relight Committeeという場の変化

インストラクションを手にしたメンバーは、それぞれペアになって街へ飛び出しました。私が引率したチームメンバーの2人は年齢が近く、友人とふらっと街に出たような感覚でした。しかし「東京観光」が始まると雰囲気は一転。それぞれにミッションが与えられ、その内容についてはお互いに相談することも許されません。

「無料でもらえるものを全て集めてきなさい」というミッションでは、秋葉原まで歩きながら、タウンペーパーやイベントのチラシ、ATMに置かれた封筒まで、とにかく目につくものを黙々と手に取るメンバー。帰ってきた彼は「無料でもらえる紙媒体の情報を、地域ごとに比較してみたいと思った」と口にしました。私も束になったそれを眺めていると、そのほとんどが広告で、紙の封筒も無料のサービスなのだと気がつきます。いくら探しても、「無料」という言葉とは裏腹にそこには広告が広まっていて、本当に見返りを求めない「無料」のものを街なかで見つけるのは難しいのだなと感じました。

「公衆電話で、2年以上話していない人に電話をかけなさい」というミッションを受け取ったメンバーはスマートフォンの電話帳とにらめっこをして、戸惑いながらも公衆電話に入りました。電話を掛けたのは、5年前に亡くなった彼女の祖父の携帯電話。電話は繋がらなかったものの、自分が今話したい人は誰かを再認識する時間となりました。彼女にとっては公衆電話を使うことも初めてのこと。そのとき公衆電話は、違う世界に通信していたのかな、と想像が掻き立てられます。

はじめは緊張していたものの「今日しか経験できないからできる限りやってみた」と語る2人は当初よりも頼もしく、私も彼らと行動を共にしながら、日常の殻を破る感覚に身をゆだねていました。インストラクションを通して、それぞれに自らの経験にひきつけた発見がありました。メンバーは自分を基軸にしたActionを起こす、最初の一歩を踏み出したようでした。

Relight Committee OB・OGの視点から

関さんは、現在進行中のActionはファシリテーターの菊池との会話の中で発掘されたと語りました。2016年度のRelight CommitteeメンバーによるActionの紹介を受け、受講生は静かに考え込んでいました。

私自身も今年(2017年)の3月11日、『Counter Void』の点灯する六本木の街で、今年度もRelight Committeeメンバーとして活動する江口恭代さんに付き添い、ある曲を繰り返し歌い、街を練り歩くというActionを行いました。
(Relight Committee 2016メンバー江口恭代・鶴見香月によるアクション「心の声 祈り ここから新たに」http://relight-project.org/report/kokoronokoe_inori_kokokaraaratani/

ある曲とは、東日本大震災への悼みや祈りとともに歌い継がれてきた『花は咲く』。震災から6年が経ち、震災とは程遠いキラキラとした街で、震災を想起させる歌を歌うことは非常に勇気が要りました。街中で歌う私たちを道行く人はただただ白い目で見るかもしれません。「あの日を思い出して」と言わんばかりのこの曲は、六本木という華やかな街にあらがうようでもありました。

NPO法人インビジブルのインターンという立場でRelight Committeeに参加した私は、開かれたアートの現場を間近で見たいと願っていました。しかし、「自分のAction」に向き合うメンバーたちを前にすると、インターンとして何が出来るのか分からずにいました。そんな時、一緒に歌ってほしいと声を掛けてくれたのが江口さんでした。たおやかな彼女が見せた「歌いたい」という強い想いと、その凛とした姿に惹きつけられました。私自身が、ただ間近で見ているだけではなく、彼女と彼女の見ているものに寄り添って、一緒に歌いたいと感じました。

今年のメンバー達は、今どんな思いやActionの種を持っているのでしょう。まとまらなかったり、探り探りの人が多いかもしれません。もしも一人で行き詰まったときは、ぜひ周りを見渡してみませんか?Actionの種は、見つけられるのを待っているはずです。

第4回を終えて

今回の東京観光で初めてテレフォンカードを使ったという19歳の最年少メンバーは、SNSの普及によって電話番号を知らない友人が沢山居たと気が付きます。私も彼女と同世代であるので共感し、普段当たり前だと思っていてなかなか意識しない情報手段の目まぐるしい変化を、肌で感じとることができました。

英語だけを使って人に道を尋ね、何とか目的地へ辿り着こうと意気込んだメンバーは、日常という枠の一歩外へ踏み出す感覚を得たといいます。メンバーが日本人であるのに道ゆく日本人に英語で道を尋ねなければならないという状況は、違和感もあり可笑しいものです。しかし、それらを振り切ることで普段は出来ない大胆な行動ができたりします。
もしも旅先で携帯電話が繋がらなくなったら。道に迷ってしまったら。普段は思いもしない手段や、少し勇気のいる方法で、なんとしても自分の意思を示そうと必死になるでしょう。

連絡手段としてスマートフォンを使うことが当たり前だと思ってしまったり、街なかでは気軽に人に声を掛けられなかったり、日常で「当たり前」になっていることはあちこちにあります。しかし、ふとしたきっかけでそこから離れることはできるはずです。「観光」はそのきっかけの一つになると確認することができました。

そして、社会彫刻家はそのような状況やきっかけを生み出す人たちだということを改めて実感しました。そんな視点を日常に持ち込んだら、景色はどんな風に変わってゆくのでしょう。今年のRelight Committeeも後半に差し掛かり、メンバーの見る日常がこれからどんな風に変わってゆくのか楽しみです。

レポート:鶴見香月(Relight Committee 2016、2016年度NPO法人インビジブル インターン)
撮影:丸尾隆一